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特許

「コンクリート穴の内面に溝を切削する内面溝切削装置」特許証・特許第5200236号

2013年2月22日
「コンクリート穴の内面に溝を切削する内面溝切削装置」 の特許を取得いたしました。


スプリングビットの画像 溝を有する孔内に打設されたアンカーボルトの効果(概念図)

1.はじめに


 コンクリートに打設されるアンカーボルトは、その引抜き抵抗ならびにせん断抵抗によってコンクリートに取り付けられる構造部材等を固定するものである。

 通常のアンカーボルトの施工は、コンクリートの打設前に所定の位置にボルトを配し、その後コンクリートを打設する方法が採られる。
一方、コンクリートの打設後にアンカーボルトが必要となるケースも多く、その場合には所定の位置を削孔し、ボルトの挿入と充填材によってアンカーボルトを定着する方法が採られる。
この方法は、あと施工アンカーと呼ばれ土木・建築の分野で広く利用されている。


アンカーボルトの設計においては、その引抜き強度が最も重要であり、一般にアンカーボルトの定着長さが長いほど引抜き強度も大きくなる。
ただし、あと施工アンカーを行う場合には、周辺の施工条件によって削孔長が制約される場合も考えられる。
その場合には、より径の大きいアンカーボルトとすることで引抜き強度を確保する等の対策が採られる。


 また、引抜き強度を高めるには、定着材とコンクリートの接する表面積を拡大することが有効である。
通常、あと施工アンカーにおける孔の内面は平滑であるが、孔の内面に凸凹を設けることができれば、定着材とコンクリートの表面積が拡大し、引抜き強度の向上が期待できるものと考えられる。


「コンクリート穴の内面に溝を切削する内面溝切る装置」(以下、孔内溝切装置という)を利用し、これにより削孔された孔にアンカーボルトを施工して引抜き強度を求めることを目的とした。


写真1に同装置の外観を示す。
孔内溝切装置によって削孔された孔は、図1の概念図に示すように、通常の孔に比較して定着材とコンクリートの接する面積が大きくなる。
このため、定着長さが同一であれば、通常のアンカーボルトよりも、高い引抜き強度が得られることが期待される。

なお、本報告書で述べるのは、当該試験業務の予備試験の結果である。

溝を有する孔内に打設された アンカーボルトの引抜き試験レポートが見れます

2.孔内の溝切り方法


 孔内の溝切りに使用した孔内溝切装置は、通常の削孔方法で設けられた孔の内面に特殊なビットを挿入し、溝を設けるものである。孔内溝切り機構の模式図を図2に示す。同装置のによる溝切りは、以下の手順で行われる。

  1. 通常の削孔方法によって削孔された孔内に孔内溝切装置を挿入する。
  2. 孔内溝切装置の円盤状の先端ビットが、同装置のロッド部に装着されたバネにより、孔壁に押し付けられる。
  3. 孔壁に押し付けられたビットの外周にチップが配されており、ビットが回転することによって孔内に溝が形成される。

写真2に溝切削孔後の孔内の状況を示す。

3.試験方法


(1)供試体

 アンカーボルトの引抜き試験には、当研究所が保有するコンクリート躯体を利用した、コンクリート躯体は2体(以下、躯体1、躯体2として区別する)あり、各供試体から採取したボーリングコアを用いて一軸圧縮試験を行った結果、供試体1の一軸圧縮強度は34.5MPa,供試体2の一軸圧縮強度は30.0MPaであった。
 これらの供試体に鉛直方向の削孔を行い、孔内溝切装置によって所定の溝切りを行った。
次に溝切りした孔内にエポキシ樹脂系注入接着剤を充填し、その後異型鉄筋( D35,SD345 )を挿入することで、アンカーボルトを施工した。
写真3に、施工後のアンカーボルトの状況を示す。

(2)試験ケース

 表1に試験ケースを示す。
試験は、孔内の溝の形状と定着長さをパラメータとして、これらの違いによる引抜き強度の相違について考察することを目的とした。
溝の形状については、溝タイプA(深さ2mm、高さ9mmの溝を50mm間隔で設置)と溝タイプB(深さ5mm、高さ20mmの溝を100mm間隔で設置)の2種類とした。
図3に溝タイプの模式図を示す。

(3)試験手順

写真4に試験装置の配置図を示す。
アンカーボルトの引抜き試験には、ラムチェア上に配置したセンターホールジャッキ(揚量:700kN,ストローク:50mm)を使用した。

 同ジャッキによってアンカーボルトの引抜きを行い、引抜き荷重とボルトの引抜き方向の変位量を測定した。
ジャッキへの載荷は手動の油圧ポンプによって行い、荷重の増加が認められなくなるまで載荷した。

4.試験結果


 試験の結果から得られた変位-荷重関係を定着長さごとにとりまとめて、図4~図6に示す。

 図4の定着長さ10D(350mm)の結果によると、溝がないケースでは降伏荷重が110kNであるのに対し、溝を有するケースではタイプAで381kN、溝タイプBで380kNの降伏荷重となっている。
また、図5に示す定着長さ8D(280mm)のケースにおいても、ほぼ同様の変位-荷重関係となっている。

 鉄筋の降伏強度が345kNであることを考慮すると、溝を有する場合は鉄筋と充填材の付着力が高く、アンカーボルトの引抜き強度は、鉄筋の引張り強度に依存すると考えられる。

 一方、図6に示す長さ5D(175mm)のケースでは、溝タイプAで180kN、溝タイプBで165kNの降伏荷重となっており、鉄筋の降伏強度よりも低い値となっている。
このことから定着長さ5Dのケースにおける降伏は、定着材の破壊によるものと考えられる。

写真5は、溝タイプAにおける試験後の表面の状態である。
同写真によると、定着長さ5Dのケースでは、アンカーボルト周辺のコンクリートが破壊されているのに対し、定着長さ8Dおよび10Dのケースでは破壊は見られない。

 以上の結果から、定着長さ5Dでは、定着効果が小さいために鉄筋の降伏に先立って鉄筋とコンクリートの付着切れが生じるのに対し、8Dおよび10Dでは、孔内に溝を設けることにより、鉄筋の降伏荷重以上の付着効果を得られることが示唆されているものと考えられる。
なお、今回の試験結果からは、溝タイプの違いによる引抜き強度の顕著な相違は認められなかった。

5.おわりに


 当該試験では、溝形に削孔された孔にアンカーボルトを施工し、その引抜き強度を求めた。
その結果から、溝を有する孔に施工されたアンカーボルトは、溝のない孔に対して付着強度が高められることを示した。
この結果から、溝を設けることでアンカーボルトの定着長さを短くするなどの設計上の反映も期待される。

 本報告では、当該試験業務の予備試験の内容のみを述べた。
本試験では、ボルトのひずみ計測、充填材の種類の追加を行う予定である。
また、引抜き試験後、溝削孔の状況および定着状況を確認するために、ボルト周辺のコンクリートを切断して目視確認を行う予定である。
これらの結果については、次の機会に改めて報告する予定である。

謝辞:本報告は、田中ダイヤ工業株式会社の委託により実施した試験の結果をとりまとめたものである。

また、本試験で使用した孔内溝切装置は、田中ダイヤ工業株式会社発明の
「コンクリート穴の内面に溝を切削する内面溝切装置」(特許第5200236号)である。

本試験の実施にあたり孔内溝切装置による削孔を行って頂いた
田中ダイヤ工業株式会社 代表取締役 田中光好氏、同取締役 田中大介氏、同営業部長 高橋直樹氏に謝意を記して謝意を表す。

【執筆者】
寺戸 秀和(てらと ひでかず)
社団法人 日本建設機械化協会 施工技術総合研究所
研究第一部
技術課長

溝を有する孔内に打設された アンカーボルトの引抜き試験レポートが見れます

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